ここでは肛門周囲膿瘍と痔瘻(じろう)についてくわしく説明いたします。
痔瘻と肛門周囲膿瘍の原因

肛門陰窩から細菌が入り肛門周囲膿瘍を生ずる
人間の肛門にはもともと肛門陰窩というポケットが存在し、下痢した際などにここから細菌が侵入することがあります。
その結果肛門のまわりに膿がたまった状態を肛門周囲膿瘍といい、トンネルができて皮膚から膿が出る状態を痔瘻(じろう)といいます。
痔瘻と肛門周囲膿瘍の症状

切開して膿を出すと1~2ヶ月で痔瘻のトンネルができる
痔瘻の場合には、肛門の近くにできた穴から膿が出続けたり、腫れて痛みが出たりします。
肛門周囲膿瘍の場合には、肛門が急に激しく痛んで腫れてきます。この場合即座に切開して膿を出す必要があります。
膿を出した後1~2ヶ月たつと痔瘻の炎症が落ち着くので、引き続き痔瘻の手術を行って痔瘻を根本から治す必要があります。
痔瘻と肛門周囲膿瘍についてのQ&A
- 肛門周囲膿瘍のため、切って膿を出してもらいました。膿を出したら楽になったのに、なんで痔瘻の手術が必要なの?
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膿を出して一時的に楽になっても、まだ原因となっている「肛門陰窩」という細菌の入り口は残っているわけです。このまま放置しておくと多くの方は再び膿瘍を作ってしまい、同じ苦痛を味わうことになってしまいます。
さらに運の悪い方は、前回より深くて複雑な膿瘍を作ってしまうこともあります。そのため当院では、切開排膿後2か月くらいたって痔瘻の炎症が落ち着いた頃に、痔瘻の根治手術をお勧めしています。
- 痔瘻と診断されました。痔瘻はかならず手術が必要なの?
- 痔瘻は自然に治ることはほぼありません。放置しておくと排膿や痛みが続いてつらい上に、時間とともに複雑な痔瘻に進行してしまうこともあります。また深い痔瘻を10年以上放置していた場合にはがん化することもまれにあります。以上の理由から、痔瘻と診断された方には全員に手術をお勧めしております。
- 痔瘻と診断されました。大腸内視鏡検査は必要なの?
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痔瘻の原因のひとつに、クローン病という腸の病気があります。若い人に痔瘻がある場合、我々が警戒しているのはクローン病の存在です。通常の痔瘻と、クローン病がある人の痔瘻では治療法が異なります。
クローン病を見落としたまま通常の痔瘻の手術をしてしまうと、傷がいつまでも治らなくなってしまい、後々大変なことになってしまうのです。以上の理由から、痔瘻と診断された方(特に若い人)には、基本的に大腸内視鏡検査をお勧めしております。
- 痔瘻にはどんなタイプがあるの?
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1型
ごく浅い痔瘻。日帰り手術可能。
2型
最も多いタイプで全体の約70~80%を占める。浅いもの以外は入院して手術が必要。
低位筋間痔瘻。内肛門括約筋と外肛門活躍筋の間を走行する痔瘻。
高位筋間痔瘻。内肛門括約筋と外肛門括約筋の筋肉の間を走行する痔瘻。
3型
全体の15%くらいを占める深い痔瘻。7~10日くらいの入院が必要。
4型
全体の2~3%とまれな痔瘻。最も深く複雑なタイプ。きわめて重症の場合には長期間の絶食や人工肛門が必要になることもあります。
- 手術はどのようにするの?
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痔瘻の手術は大きく分けて3通りあります。それぞれに長所、短所があるため、痔瘻の状態に応じて最適な術式を選択する必要があります。
括約筋温存術(くりぬき法)
- 長所:肛門の変形、便漏れがまず起こらない。
- 短所:再発率が高い(10~15%くらい)
シートン法(ゴム輪法)
- 長所:上手に行えば肛門の変形、便漏れの起こることはまずない。再発率は低い(2%くらい)。
- 短所:治るまでに時間がかかることがある(2か月程度)
切開開放術
- 長所:再発率がもっとも低い(1%以下)。
- 短所:原則として浅い痔瘻が対象。背中側の浅い痔瘻であればこの方法がベスト。横や前方向(腹部側)の深い痔瘻に行うと、変形が起こる恐れがある。
- 日帰り手術はできますか?
- 肛門の手術後には、出血や痛みの起こる可能性が誰にでもあります。さらに痔瘻の術後には排便のコントロールも重要となってきます。以上の理由から、痔瘻の手術の場合には通常1週間前後の入院をお勧めしております。ただし1型痔瘻や、2型痔瘻の浅いものであれば、日帰り手術も可能ですのでご相談ください。
- 再発することはあるの?
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我々は肛門機能を損なわず、再発しない術式について長年研究を続けてまいりました。その結果、最近ではほぼ全員(97~98%)が1回の手術で治せるようになってきています。
ただし3型、4型痔瘻は深くて複雑なため、治療はやや難しくなります。再発率も他のタイプの痔瘻よりやや高くなり、近年では4%前後になります。もし再発した場合には最善の対処を行っておりますので、最終的にはすべての方の痔瘻を治すことができております。
- 痔瘻の手術をうけると、肛門の変形や便もれが起こりそうで心配です。
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「痔の手術を受けると肛門がゆるくなる」という話を聞いたことはありませんか?これは痔瘻の手術で肛門括約筋を下手に傷つけることで起こるのです。
痔瘻を一度で治そうと思えば、痔瘻をできるだけ大きく取れば良いわけです。しかしそれでは肛門の大事な筋肉を傷つけてしまうことになり、下手すると「たれながし」の肛門を作りかねません。逆に肛門を傷つけることを恐れて中途半端な手術を行うと、こんどは痔瘻が治らないわけです。
痔瘻の手術は、「肛門の機能を保つ」ことと、「1回の手術で治す」という相反する要素を高いレベルで実現させるのが難しいといわれています。辻仲病院グループの医師たちは肛門周囲の筋肉の構造や、痔瘻の術式について充分に理解し、手術を確実に行える医師だけが術者になることを許されます。
痔瘻の手術では、「やるべきこと」と、「絶対にやってはいけないこと」という区別がはっきり存在します。この区別を知らずに痔瘻の手術を行うと、再発を繰り返したり、「たれながし」を作ったりしかねないので、「肛門科専門病院に数年在籍して手術の経験を積んだ医師以外は、痔瘻の手術を行うべきではない」というのが我々の考えです。
当院をはじめ、辻仲病院グループでは、痔瘻を熟知した医師達が手術を手がけております。さらに過去何万例もの痔瘻の手術成績をアンケートや肛門機能検査にて詳細に解析し、合併症を最小限にしつつ痔瘻を治療する戦略を確立しております。その結果、当院では術後の変形や便漏れに悩まされるケースは激減しており、最近ではこのようなトラブルはかなりまれになってきています。